ニューヨークのワインショップ THE WINERY の京都店、THE WINERY KYOTOは定期的に訪れてチェックしているんですが、そこでお勧めされていたローヌのAOCグリニャン・レ・ザデマール(Grignan-les-Adhémar)をお試しです。このAOC、以前一度試しています。かつてコトー・デュ・トリカスタン(Coteaux du Tricastin)と呼ばれたAOCの名称変更されたものです。

IMG_9920
作り手は1977年、南ローヌのラ・ボーム・ド・トランシ村(La Baume-de-Transit)に創業のドメーヌ・サン・リュック(Domaine Saint Luc)。コルニヨン家によって創業されましたが、後継者がいなかったため2006年にアニス酒で有名なペルノ・ディスティルリ出身のエノロジストであるステファン・エマールさんがワイナリーを取得。しかし、ステファンさんも後継者問題で2016年ドメーヌの売却を決意。2016年の7月よりパスティス(フランスのリキュール)のブランド、ジャノ(Janot)を所有するムニエ家のオリヴィエさんが取得して今に至ります。2017年にはセラーも改装・刷新しているそうです。36haの畑は、主にAOCグリニャン・レ・ザデマール(Grignan-les-Adhémar)とAOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・スーズ・ラ・ルース(Côtes du Rhône Villages Suze la Rousse)にあります。

公式ページは今時風でいい感じ。宿泊施設も併設でそちらの情報もしっかり載っています。

ワイン紹介はデータシート完備です。

・シラー 65%
・グルナッシュ 35%

除梗ありで伝統的な製法だそうで。熟成はコンクリートタンクで樽はなし。期間は不明ながらインポーター情報では約1年とのこと。

ここでAOCグリニャン・レ・ザデマール(Grignan-les-Adhémar)の品種の規定を見ておきましょう。このAOCは赤・白・ロゼがあります。

<赤>
主要品種: シラー(30%~80%)、グルナッシュ(20~70%)
補助品種:サンソー、ムールヴェードル、カリニャン、マルスラン(10%以下)(以上、黒品種)
ブールブラン、クレレット、グルナッシュ・ブラン、マルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエ(以上、白品種)
(白品種は10%以下)

<ロゼ>
主要品種:グルナッシュ、シラー、サンソー
補助品種:ムールヴェードル、カリニャン、マルスラン(10%以下)(以上、黒品種)
ブールブラン、クレレット、グルナッシュ・ブラン、マルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエ(以上、白品種)
(白品種は20%以下)

<白>
主要品種:ヴィオニエ(30%以上)、グルナッシュ・ブラン、マルサンヌ、ルーサンヌ
補助品種:ブールブラン、クレレット

ややこしや。なかなかローヌの品種規定は一筋縄ではいかないですね。
※ブールブラン(Bourboulenc)と書いていますが「ブールブラン」と発音するようですね。


ドメーヌ・サン・リュックを訪問。う~ん、ストビューで近づけません。
Dom.Saint_Luc01
HPを見ると、プールもあるいい感じのプチホテルが併設されています。


AOCグリニャン・レ・ザデマールの対象コミューンをINAOの地図で確認します。
AOC_Grignan-Les-Adhemar
ドメーヌ・サン・リュックはラ・ボーム・ド・トランシ(La Baume-de-Transit)にあります。

ローヌ全体(北部~南部ローヌ)地図でどのあたりか見てみましょう。
Cotes-du-Rhone-Grignan-Adhe
これはAOCコート・デュ・ローヌ(Côtes du Rhône)全体を見るために作った地図ですが、AOCグリニャン・レ・ザデマール(Grignan-les-Adhémar)はAOCコート・デュ・ローヌに含まれないことがわかりますね。(また、AOCコート・デュ・ヴィヴァレ(Côtes du Vivarais)というのも同じくAOCコート・デュ・ローヌに含まれないことをついでに確認しました。)

さて、AOCグリニャン・レ・ザデマール(Grignan-les-Adhémar)は、かつてAOCコトー・デュ・トリカスタン(Coteaux du Tricastin)と呼ばれ、2010年に名称変更になっています。これは過去記事でも触れましたが、2008年に起きたトリカスタン原子力発電所の放射能漏れ事故の影響による風評被害を避けるための名称変更でした。

これは以前に描いた南部ローヌの地図。トリカスタン原子力発電所の場所を記しています。
Triscatin_Rhone_Sud_Meridio

確かに微妙な位置にあるトリカスタン原子力発電所。行ってみました(笑)。
Adechois02
なんと、Google Mapではボカシが入ってます。上空写真も拡大しても高解像度になりません。なんだ、なんだ? ヤバそうな雰囲気がプンプンします。
2008年の放射能漏れ事故を調べてみました。2008年7月、天然ウランを含むウラン溶液18,000リットルが誤って放出され地面に漏れてしまったとのことで、ガフィエール川(Gaffière)とロゾン川(Lauzon)で高濃度のウランを検出。これらの川はカナル・ド・ドンゼール=モンドラゴン
(Canal de Donzère-Mondragon)を通じてローヌ川に合流しています。当局は川からの飲用水と農業用水の使用を禁止、この他にも水泳やウォータースポーツ、釣りも禁止されました。その後、約100人の従業員が、停止した原子炉から漏れ出した放射性粒子によって被曝していたそうです。ただ事ではなかったみたいですね。
フランスでは59基もの原発が稼働しており、総電力の80%を原子力に頼っている状態ですが、フランス政府は原子力発電所の運営を原子力開発会社大手アレバ(AREVA)というのに丸投げで任しており、アレバの言うことも鵜呑みの状態だそうです。アレバの幹部はこの事故後、「健康や環境への被害はない」と発表しているそうです。ああ、良かった…ってならんわ!!
この原発と同じ名前のAOCコトー・デュ・トリカスタン(Coteaux du Tricastin)を名称変更したのが今日のワインですが、風評被害という理由もわかりますが、それ以上に南部ローヌのワインのヤバさを隠そうとするための名称変更であったような気がしてなりません(笑)。

さあ、気を取り直して南ローヌ(Vallée du Rhône Sud / Méridional)地図を見ます。
Rhone_Sud_Meridional_FINAL
今日のドメーヌ・サン・リュック(Domaine Saint Luc)が、AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・スーズ・ラ・ルース(Côtes du Rhône Villages Suze la Rousse)のワインも作っているというのがわかりますね。すぐそこですからね。
このように、AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ(AOC Côtes-du-Rhône-Villages)には、後ろに地名(補足的地理的呼称:Dénominations Géographiques Complémentaires)をつけて名乗れる狭域のAOCが22もあります。この地図ではひと通り網羅していますが、以下に列挙します。

・Côtes-du-Rhône-Villages Chusclan
・Côtes-du-Rhône-Villages Laudun
・Côtes-du-Rhône-Villages Massif-d'Uchaux
・Côtes-du-Rhône-Villages Plan-de-Dieu
・Côtes-du-Rhône-Villages Puyméras
・Côtes-du-Rhône-Villages Roaix
・Côtes-du-Rhône-Villages Rochegude
・Côtes-du-Rhône-Villages Rousset-les-Vignes
・Côtes-du-Rhône-Villages Sablet
・Côtes-du-Rhône-Villages Séguret
・Côtes-du-Rhône-Villages Saint-Gervais
・Côtes-du-Rhône-Villages Saint-Maurice sur Eygues
・Côtes-du-Rhône-Villages Saint-Pantaléon-les-Vignes
・Côtes-du-Rhône-Villages Signargues
・Côtes-du-Rhône-Villages Valréas
・Côtes-du-Rhône-Villages Visan

<2012年追加>
・Côtes-du-Rhône-Villages Gadagne

<2016年追加>
・Côtes-du-Rhône-Villages Sainte-Cécile
Côtes-du-Rhône-Villages Suze-la-Rousse
・Côtes-du-Rhône-Villages Vaison-la-Romaine

<2017年追加>
・Côtes-du-Rhône-Villages Saint-Andéol

<2020年追加>
・Côtes-du-Rhône-Villages Nyons

今日の作り手の、AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・スーズ・ラ・ルース(Côtes du Rhône Villages Suze la Rousse)は2016年に追加されたものです。2020年にも ~Nyons が追加されるなど、結構、近年まで追加が続いていますね。まだまだ増えるかもしれません。要注意。


エチケット平面化画像。
IMG_9710
裏ラベルに書いてますが、「Tradition」という伝統的製法のワインになるようです。


さあ、抜栓。
IMG_9924

コルク平面化。
IMG_9917
DIAM1ですか。ミレジムが入っていていい感じです。

Alc.14%。
濃いインキーなガーネット。
IMG_9918

黒ベリー、ダークチェリー、ゼラニウム。
かすかなブレットもあってローヌっぽいです(笑)。
辛口アタック。
濃い重いコクのある液体が流れ込んでくる感じ。
厚み・複雑味と圧倒的な質量を感じます。
余韻もその重厚感を保ったまま続きます。

久しぶりの重うまローヌ。
樽なしでこの感じ出せるんですね。


*****

Domaine Saint Luc
Grignan-les-Adhémar 2020
RRWポイント 94点