19世紀前から、ボルドー、ブルゴーニュ他ほとんどのヨーロッパの品種が、
ワイン作りに最適の新天地としてチリに持ち込まれていました。
その後、フィロキセラ禍で壊滅したヨーロッパから逃れた優秀なエノロゴ(醸造家)も、
優秀なワインづくりを再開するために希望の新大陸にやってきました。
(フィロキセラ:ブドウネアブラムシ。19世紀、アメリカから欧州に渡り、
大流行した害虫。ブドウの根に寄生して欧州品種に対しては親木を枯らしてしまう。
アメリカで自生している野生種のブドウはこのフィロキセラに耐性がある。)


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そして、ヨーロッパに残されたワイン産地がフィロキセラの害を除去するため、
泣く泣くアメリカのブドウの野生種に接ぎ木して元の品種を再生しましたが、
自根で栽培された本来の品種の味を再現できなかったのは想像に難くありません。

当時、アメリカ産の野生種の台木にヨーロッパ純血種を接木するのは
悪魔の所為と猛反対する声も大きかったと聞きますが、
素人でも100%同じ味が守れるかという問いには簡単に答えが想像つきますよね。

ブルゴーニュでは1887年まで公式にこの接木を禁止していた事実から、
オリジナルの味は再現できないというのは明らかだったのでしょう。
かのロマネコンティも最後まで自根のピノ・ノワールで頑張ろうとしたそうですが、
1945年についに断念、接ぎ木方式を開始し現在に至ります。


しかし、チリだけは、奇跡が起こりました。
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地勢的な条件が幸いし、
世界で唯一チリのみがフィロキセラにやられなかったのです。
東はアンデス山脈、西は太平洋、北はアタカマ砂漠、南は南極大陸、
四方をこれ以上ないという自然のバリアーが守ってくれたのです。

フィロキセラ禍以前に持ち込まれたヨーロッパ主要品種は、
現在に至るまですべて自根で育てられチリで生き続けています。
オリジナル品種を自根で育てた本来の味を出せるワインはチリにしかないのです。
これは隣のアルゼンチンだってできていません。

カベソーもメルローも、ピノ・ノワールもみんな自根なんですよ。(※)
そして、ボルドー、ヨーロッパから姿を消した幻のカルメネールまで。
世間の皆様も、チリワインをいつまでも安物ワイン扱いせずに、
この事実を、チリワイン自身の味で、自分の味覚と想像力を使って、
めいめいで確認してみてほしいものです。(笑)

ワインのガイドなんかを読んでいると、
たまにチリワインの品種の特徴として、本来のものより味が濃い目だとか、
フランス本国の繊細な味とはちがって大味だというような表記を目にします。

そんな時、
「なにか勘違いしてやいませんか?」
と思わずつぶやきたくなるのです。


(※)
(実際には、チリでも他の病害対策や樹勢コントロールなどの理由で
意図的に接木しているところもあるようです。
昨今では優秀な台木もいろいろ改良されて出てきています。)


* * * * * *


さて、いつものウンチクはこれぐらいにして、
「自根」という決定的な要素以外にチリワインを「特別」にしているポイントを考えてみます。


<手摘み>
チリのワイナリーも大手資本が付いたり、大企業化して、観光業も手掛けたりしています。
当然ワインづくりも近代化していいものを大量に作れるようになっています。
しかし、労働力の安さもあって、大手ワイナリーでもブドウの収穫は手摘みにこだわっています。
ヨーロッパも新世界も大抵機械摘みが主流になっている中、これは貴重です。
枝や葉っぱ、土やゴミ、こんなものが混醸されたら味は落ちますからね。
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<テロワール及び地理的条件>
なんといってもチリのワイン産地のブドウ畑の風景は好きです。
絶対おいしいワインができるはず、と思わせます。
これが僕が思うテロワールです。
(このブログで時々リンクするチリの有名ワイナリーのサイトを
覗いてみてください。どこも美しい畑の映像を自慢していますよ。)
「世界あちこちのワイナリーや畑に行きたい病」の本質は、
このテロワールの体感にあります。
そして、チリには、地中海性気候と切り立ったアンデス山脈のお陰で、
山中から海岸沿いまでの高度差と気候差の間には、
必ずそれぞれのブドウの品種にベストマッチな環境が存在するという
大きなアドバンテージがあるのです。
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Viña VentisqueroのRoot:1のサイトから)


<ドイツ系移民>
これはネットで探してもどこにも書いていないんですが、
南米への入植者はスペインはじめ、フランスやイタリアからと思いますが、
ワイナリーのチリ人から聞いたところでは、ことのほかドイツ系の移民が
チリには多かったというのです。
ワインづくりに従事したドイツ系の方々も多く、
それがチリワインに「勤勉さ」という特徴を与えたという話です。
うそかホントか、みたいな話ですが、僕はなんとなく信じられます。
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<カルメネール>
何度もいろんな機会に書いています、
チリにしかない、かつてボルドーの主要品種であった幻の品種です。
これがいただけるのが何と言ってもチリワインの魅力です。


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さあ、この3本、日本でもおなじみのブランドですね。
どれもワンコイン(500円)で売られていて驚異の安さです。
しかし、この3ブランド、いずれもカルメネールのバリエタルをラインアップしています。

タルで長期熟成した高級ワイン風の風味付けは期待できませんが、
カルメネール単品種でこの味のワインが生み出せることに気づくと、
この品種の底力を思い知ることになります。

ちなみに左から、

・Alpaca / Carmenère(Santa Helenaの輸出用ブランド)
・Gato Nego / Carmenère(San Pedroの看板最多販ブランド)
・FRONTERA / CARMENERE(Concha y Toroのバリエタルレンジ)

どうせ買うなら、カベソーじゃなくてカルメネールにしませんか?